「5文字の文学」の世界があった! ~日本語の素晴らしさに感動~  私のエッセイ雑記帳(その82)

ライフワーク研究家 中村 義

書き留めておきたいテーマというものは、突然に浮かぶことが多い。バスなどで移動中に、ふと気づくことも少なくない。そんなときは、急いで小さなメモ帳や打ち合わせ資料の隅などにメモることが習慣になっている。

ところが、メモ帳のたぐいはいくつもあり、また紙きれなんかにも書きとめるので、うっかり無くしたり、行方不明になることもしばしば。これだけは残しておきたいということについては極力早めに整理しておくのがいいと分かっているのだが、現実にはそうはいかないのが私の欠点であるから始末に悪い。

さて本題に入る。

ちょっと大げさに言うと「日本文学」の範囲という定義などは別にして、読み書きの好きなものにとっては、その文章の容量が気になる。ごく大雑把で身近に親しんでいるものから、その分量の多い順に並べてみると、小説(長編、短編)、随筆(エッセイ)、詩、短歌、俳句・川柳などという分類ができる。

短歌は31文字、俳句・川柳は17文字ということで、こんなに少ない文字で表現できる日本語って、なんて素敵なんだろうと、いつも感心している。

でも、もっと短い文学というか、ものがないかな?なんて考えていたら、あの「いろはカルタ」のことが頭をよぎった。

今では、すっかりご無沙汰の世界ではあるが、昔を思い出して「い」「ろ」「は」…と復唱している私がいた。とりわけ少ない字数のものを探してみると、まず7文字の「花より団子」、次に6文字の「猫に小判」が見つかった。

大事なことは単語だけではなく、短い文字の中に深い意味が存在していること、すなわち日本人なら誰でもその内容を理解できることが大前提である。

そして、ついに究極の5文字にたどり着いたのである。しばらく興奮状態が続いたのは言うまでもない、

それでは発表します。「糠(ぬか)に釘」。やった!この5文字、「世界で一番短い文学?を発見」と勝手に小躍りした私がバスの中にいたのである。

と、昨年5月にここまで書いて喜んでいたところ、ごく最近、この「5文字の世界」に是非とも追加したい情報を見つけてしまった。それは2013年12月に日本の「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されたことに関連して、この日本人の伝統的な食文化を支える「五の世界」が存在していることを知ったのである。

それらは、次のような「和食に大切なものとしての5つの五の世界がある」ということで、同時に日本語のすばらしさの極みを表しているのだ。

・五法:生(切る)、煮る、焼く、蒸す、揚げる

・五味:酸味、苦味、甘味、辛味、塩味

・五色:白(清潔感)、黒(引き締め)、黄・赤(食欲増進)、青・緑(安心感)

・五適:適温、適材、適量、適技、適心(おもてなしの心)

・五覚:視覚、臭覚、聴覚、触覚、味覚

これら全てがバランスよく混ざり合い、和食独特の美しさを演出していることで、やはり世界が認めた究極の和食文化である、ということを改めて知った。

何ということか、再度この「5つの五の世界」のそれぞれの意味合いをじっくりと眺めることで、日本語そのものの素晴らしさと古来より延々と受け継がれている日本人の繊細な美的感覚にも驚嘆したのである。

これぞ、食と言語の一体化した世界に誇れる文化資産であることに、まったく異論はない。本当に日本人に生まれ育ってよかった、と感じる瞬間でもあった。

(余談)以前、行きつけの寿司店の職人から聞いた言葉を思い出した。「料理には基本はあるが、決まりはない」という名言である。この基本とは5つの五の世界のことで、決まりとは、各人が考えるバランスを大切にして、その料理に合う容器に盛りつけたり、四季おりおりの植物をあしらうなどの工夫を凝らした演出をすること。そのことを寿司職人は私に言いたかったのではないだろうか。やっと彼の本意を理解することができた。

<参考書籍>『熊楠works』vol.43(2014.4.1)南方熊楠顕彰会発行「雑感」

(追記:余談)沖縄は、もっと凄い!

先日、テレビで沖縄の方言で、びっくり仰天の言葉(日本語)の世界を知ったので紹介する。
「すーぬーぷー」「いー」という親子のやり取りである。
これを翻訳?すると「お父さんオナラした?」「うん」という会話である。

ちなみに、すー:お父さん
     ぬー:何?
     ぷー:オナラ
     いー:うん

ということである。たまげたものだが、彼らはこれで十分に意思疎通ができているから驚きを超えた世界でもある。

他にも、「わー:自分」、「たー:誰?」など、まるでスパイ用語みたいな面白い日本語に感心しきりである。やはり日本語はいいね。

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